そこには、一人の男性が佇んでいた。






さらさらと揺れる、艶やかな黒髪。



すっと、通った鼻筋。





吊り上がった切れ長の瞳は熱を一切感じず、水晶をはめ込んだように、無機質な勝色。





口元はいつも不機嫌そうに真一文字に結ばれていて。




顔の造形をとっても、仕草一つをとっても、短所など見つかるはずもない。






まるでロボットのような。






完璧で、……完璧であることが当たり前のような人。












……私が、この世界で、一番嫌いな人。






「……なんで」






何か、何か口にしなくてはいけないと、肺を絞り、かすれ声を出す。









「なんで……ここに、いるの」



「……」






そいつは横目でこちらに視線をよこした。






「家主が家にいて何が悪い。……お前こそ、何故ここにいる?」



「わ、……たしは」



「……あぁ。あの女か」



「……っ」






呆れたように、ため息と一緒に漏れた言葉に、どきりと目を開いた。






ぱくぱくと口に動かすけど、言葉なんて出てこなくて。






ただただ、浅い呼吸を繰り返した。






どくどくと心臓が脈打つ音が、どんどんと大きく耳奥で反響する。






温かな記憶が、あっという間に黒で塗りつぶされていく。







「……いつまで固執する気だ?」



「わ、たし……っ」



「お前は優秀な血筋を引き、尚且つ私に似ている。何故自分の価値を理解しない」



「……っ誰が……!」






かっと頭に血が上って、叫ぶように声を吐き出す。






憎い……この男が、憎くてたまらない。






溢れる憎悪の感情をすべてのせて、悠々とした様子のそいつを睨みつけた。






「私は……っあなたに似ていて得をしたことなんてない……! 私は……私はっ! できることなら、この血を全部取り換えて、なかったことにしたい……!」






両手で自分の身体を掻くようにして、抱きしめる。




いつの間にか爪を立てていたようで、濡れたような感触と同時に腕がピリ、ひりついた。