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〈陽平side〉


「……あれ、お帰り、真見さん」






玄関の方からガチャリと扉の開く音がして身肉と、ちょうど真見さんが帰ってきたところだった。






「……真見、さん?」



「……」






足先を向いて立ち尽くす真見さん。






明らかに様子がおかしい。






「どうかしたの?」






慌ててそう問いかけると、真見さんはゆっくりと顔をこちらへ向ける。





「……ううん。なんでもないよ? 久しぶりに遊んだから疲れちゃって」






にっこりと、完璧なほどに美しい笑顔。






ただのクラスメイトとして過ごしていたころには、一番よく見ていた表情だった。






だけど、一緒に暮らしている今の自分は、大きな違和感を覚えて。








「真見さ……」






原因を確かめようと、一歩踏み出した時、後ろのドアから琴音ちゃんが顔を出した。






「……まこちゃん?」



「琴音、ただいま。今日は保育園のお友達のおうちにお邪魔したんだよね? 楽しかった?」




「うん……楽しかった……よ?」






琴音ちゃんも大きな瞳をきょときょとと動かして、感じる違和感の元を探そうとしている。






だけど、鋭くて、そんなことはとっくに気が付いているはずの真見さんは何も言わずに笑顔を張り付けたままで。







「さっ。ごはん早く用意するから、待っててね」






華やかで、それであって花が綻ぶような、そんな淡い微笑。






誰が見ても好意を抱くであろう『それ』に、何が隠されているのだろうか。






薄くなったバリアが再び強固になってしまった。






少しでも仲良くなれたと思ったのは……俺だけだったのかな。






その夜、真見さんは俺の部屋に来なくて、恋愛相談も、デートの感想を言うこともできなかった。