「あの」

日下部さんはカーテンから目だけ出して遠慮がちに言う。

「ん?」

「さら風さんのあの作品って続き書くの?」

中学生の頃好きだった女の子に気持ちを伝えることが出来ず大人になってしまい、今でも気持ちを伝えたいと思っている、というところで物語は終わっていた。

「書いてもいいかも。嬉しい結果になったから。」

そこで俺に意地悪心が浮かんだ。

「書いたら感想くれるよね?」

「えっ!?無理だよ。恥ずかしいよ。」

「感想待ってるから。」

「ダメダメ!無理!」

そう言ってカーテンから両手を出して俺の両腕を掴んでくる。自分の中の何かが外れる音がした気がした。

───中学生の俺、いいよな?駄目って言われてももう止まれない。

「そっちから触れてきたから指一本触れない誓いは無効だよ。」

そんな都合のいいことを言って俺はカーテンを開いて直接日下部さんを抱きしめた。床にはひとつになった二人のシルエットが映っている。

その後俺がどこまで彼女に触れたかはご想像にお任せしたい。テーブルに戻った時にはデリバリーで届いた料理がすっかり冷めていたということだけは報告しておく。




───『届いてしまった恋文』 完───