エレベーターから始まる恋




「まずい!ギリギリだ!!」

ふわふわした気分で朝起きた私は、時計の時刻を見て驚いた。
アラームを止めた記憶も鳴った記憶もない。
身支度は最低限で済ませ、汗を流しながら必死になって辿り着いた。

ビルに入り、ちょうど閉まりかけたエレベーターに滑り込んだ。

「ふぅ、ギリギリセーフ」

これを逃したら2分は来ないだろう。
全く、エレベーターはもう1基増やしてほしいところだ。

肩を上下させ、膝に手をついて呼吸を整える。

…おや?
視界に革靴が。ゆっくりと視線を上げる。
徐々に顔が見えてくる。
その人物は不思議そうに私を見ていた。

「…っ!?お、おはようございます!」

「…おはようございます」

想像していた反応と違い、内心戸惑う。
前と変わらない、感情の読めない表情だ。

おかしいな…
もしかして、あの言葉は幻聴だった?食事したのも幻?

やがてエレベーターは3階に止まった。
ガクリと肩を落としていると、右手にふわっと温もりを感じる。
郡司さんの大きな手が、私の手をしっかりと包み込んでいた。
そして軽く、ぎゅっぎゅっと2回握られた。

開く扉。彼は足を踏み出す。

「郡司さん!!」

ゆっくりと振り向いた。

「今日…一緒に帰っても、いいですか?」

その顔に少しずつ感情が映し出される。

「あぁ。もちろんだよ、雅」

「っ!!」

扉が閉まり切るその瞬間まで、私たちはしっかりと見つめ合っていた。

最初は名前もどこの会社の人かも分からなかった彼。
エレベーターから始まった恋は、挨拶だけの関係から形を変え、また新たに動き出しました。



【完】