エレベーターから始まる恋

扉が閉まった後も、しばらくその場に立ち尽くしていた。

彼女は確かに俺の名前を口にした。
どうして知っている?
エレベーターで顔を合わせる程度の関係なのに。

それに、普段はコンタクトであることも知っていた。
コンタクトの洗浄液を切らしており、今日はたまたまメガネを掛けてきた。
まるで、普段の俺を知っているような言い方だった。

気になって仕方がないが、仕事をしないわけにはいかない。
切り替えが上手いのは自慢できる長所だ。


大きなトラブルも起こることなく、無事に一日を終えた。
定時ぴったりに仕事が終わるのは久々だ。

エレベーターを降りて少し歩いた先に、掃除用具を運んでいる美知子ちゃんを見かける。

「お疲れ」

「あら恭ちゃん。今日は早いの?」

「珍しく残業なし。てか、それは?」

カートを押す美知子ちゃんの片手には重さのありそうなビニール袋が提げられていた。
俺が問うと、美知子ちゃんは嬉しそうにその袋を俺の前に掲げる。

「お昼に雅ちゃんがくれたのよ。買いすぎたからどうぞって。全く、可愛い子よね。自分が食べられる分だけ買えばいいのに」

そう言って広げられたビニール袋の中身を覗き込むと、サンドイッチやパンやら、俺が今日の昼に江藤と行ったカフェで見たような物が入っていた。