エレベーターから始まる恋

「また母さん余計なことを…」

たまにかかってくる電話で、いつ結婚するんだと必ず聞かれる。
俺も35歳だ。それなりに恋愛経験もあったし、今までに結婚を考えたことだってある。
ただ、そういうのは巡り合わせであって、急いでするものではないと思っている。

「恭ちゃんといつも一緒にいるあの美人さん…誰だっけ?確か、江藤さん?」

「江藤?あぁ、彼女はそういうのじゃないよ」

江藤 さゆり、俺の5歳下の部下。
確かに彼女は美人だが、色恋沙汰は一切ない。

「何でよ〜もったいないわ」

一人でぶつぶつ話し始める美知子ちゃんを横目に再びため息が溢れる。
彼女のこと、もう少し知りたかった。
でも、名前が"雅"だということはわかったから、収穫はあった。

「じゃ、俺も出るわ」

踵を返したところ、美知子ちゃんに呼び止められる。

「恭ちゃん、雅ちゃんはとてもいい子よ。清掃員の私にも変わらず元気に挨拶してくれるし、たくさん話しかけてくれるわ」

俺の気持ちを汲み取ったのか、最後に「頑張ってね」と付け加えた。
まだ自分では認めたくないが、そういうことなのだろうか…?