エレベーターから始まる恋

きっと誰に対しても同じように挨拶する子なのだろう。
清掃員と仲良くしているあたり、そのような光景が簡単に脳裏に浮かぶ。


とある日の昼休み、外食しようとエレベーターで1階に降りると、彼女の姿が目に入った。
相変わらず楽しそうに話している…
毎度毎度、よく会話のネタが生まれるものだ。

壁に身体を預けて、軽く腕を組みしばらくその様子を眺めていた。
やがて彼女は手を振って別れを告げ、ビルを出て行く。
それを目で追いながら、ゆっくりと清掃員の元に歩み寄った。

「…ミチコちゃん、彼女は？？」

清掃員は俺を見るなり顔を綻ばせた。

「あら恭ちゃん。彼女って、雅ちゃんのこと？」

鈴木　美知子、俺の母親の妹。
要するに、叔母にあたる人物。

長らくこのビルで清掃員として働いている。

「雅っていうのか」

美知子ちゃんに聞こえないくらいの小さな声で、彼女の名前を呟いた。

その様子が面白いのか、美知子ちゃんは持っていたモップの柄で俺の腹を軽くつつく。

「あら、雅ちゃんのこと気になるの？恭ちゃんもいい年なんだし、そろそろ身を固めてほしいって美奈子ちゃんが言ってたわよ〜」

美奈子とは、俺の母親の名前。
それを聞いた途端、深いため息が出た。