エレベーターから始まる恋


食事の約束をした日から当日である今日まで、エレベーターで郡司さんと鉢合わせることはなかった。
連絡もとっていない。
でもやり取りが残っているから、どうやら幻ではなかったようだ。

ただ、音沙汰がなさすぎて、もしかして自分は弄ばれているのではと思ってしまう。
約束の時間に約束の場所に行っても、郡司さんはやって来ないかもしれない。

顎に手を添え、探偵のように考え事をしながらエレベーターに乗り込む。

「…どうしようかなぁ」

ぼそっとこぼれた声。
この空間に誰もいないと思っていたが、予想外の人物に拾われてしまった。

「今日、来ないの?」

耳に入るだけで胸がキュッとなる心地のいい低音ボイス。
思わず顔を上げると、その声の主とばっちり視線が交わった。

「ぐぐぐぐ郡司さん!?」

「おはよう」

相変わらず今日もカッコいい。
髪を切ったのか、いつもよりすっきりしている気がする。

「おはようございます…あの…」

もじもじしている間にエレベーターは3階に到着した。
私の言葉の続きを待ってくれていた郡司さんだったが、扉が開いたところで開くボタンを押したまま肩越しに目線を私に向ける。

「今日、待ってるから。それじゃ」

「あっ…」

郡司さんの声がしっかりと耳に残った。

"待ってるから"

私…本当に郡司さんと食事に行くんだ。