エレベーターから始まる恋


「裏、見て」

その言葉に名刺を裏返して見た。
そこにはおそらく電話番号と、メッセージアプリの個人IDが書かれていた。

驚いて顔を上げると、郡司さんは一瞬だけ私と目を合わせ、そしてすぐ逸らし踵を返した。

「あ、あのっ、これって!」

声が届いているのか届いていないのか…いや、届いているはずなのにこちらを振り返ることはなかった。

その場にポツンと取り残された私。
もう一度、名刺に目線を落とした。

これって、一体どういう意味なのだろう…
これは郡司さんのプライベートの番号…だよね?
連絡していいってこと?郡司さんはどういう意図でこれを私に?

思考が回らないまま、手書きで書かれたその文字を指でなぞる。

「郡司さん…」

どこにしまうこともなく、その名刺を手に持ったまま、ぼーっと帰路に着いた。