エレベーターから始まる恋


グンジさんの顔が頭から離れない。

"やめるんですか?"

挨拶する時と変わらない、感情が読み取れない表情。

"なんで俺の名前を?"

見たことのない、驚いたような表情。

と言うか…

「私、名前呼んじゃった!!!」

キーボードを打つ手を止め、両手で頭を抱える。

「坂本さん?どうかした?」

向かいの大橋さんが心配そうに顔を覗かせる。

「いえ、何でもありません…」

「ならいいんだけど…。あ、そうだ。この前頼んでいた資料できた?」

「はい!ちょっと待ってくださいね」

ちょうど昨日完成させたデータを保存しているファイルを開き、両面印刷してホチキス留めする。

「こんな感じで、どうでしょうか」

大橋さんは私から受け取った資料をパラパラとめくり、そして笑顔を向けた。

「うん、完璧。いつもありがとうな」

やりがいならここにもあるじゃないか。
大橋さんをはじめ、営業さんのサポートをしてこうして"ありがとう"と言ってもらえる。

石岡さんを除けばみんないい人ばかり。
仕事に忙殺されてピリピリすることはよくあるけど、それは多分私も同じで。

「大橋さん」

外回りに出る準備をする大橋さんを呼び止める。

「私、頑張ります!これからも頑張ります!」

少しの間を置いて、先ほどの笑みを浮かべた。

「うん、よろしくね」