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あの日から、どうも仕事に身が入らない。
こんなの公私混同だし、社会人として情けない限りだけど…
石岡さんからのパワハラ…いやいや、ご指導に耐えてこれたのも、グンジさんがいたからなのに。
彼女がいるかもしれないなんて、そう言えば考えもしなかった。
ただの憧れで止まればよかったものの、ちゃんと恋をしてしまった。
一人、エレベーターに乗り込む。
4階を押すと、ゆっくりと動き出した。
「…はぁ、仕事、やめよっかなぁ」
「やめるんですか?」
「…はい、意味がなくなって…って、ええ!?」
ぽつりと口からこぼれた言葉が誰かに拾われた。
いつの間に乗ってきたのだろう。
「おはようございます」
「お、おはよう…ございます」
不意打ちのグンジさんは心臓に悪すぎる!
そういえば、いつもと雰囲気が違うような…
あ!!
「今日はメガネなんですね」
「えっ?」
そう言ったところで、エレベーターがチンと音をあげ扉がゆっくりと開いた。
「あっ」
しばらくぼーっと立ち尽くしていたグンジさんがふと我にかえり、慌てたように降りた。
そして一瞬だけこちらを振り返る。
私は思わず呼んでしまった。
「…グンジさんっ」
再びしっかりと向けられた顔。
彼の目が見開かれる。
「え、どうして俺の名前…」
扉が閉まるその最後まで、お互いの視線は重なり合っていた。



