やがて上りのエレベーターが到着し、扉が開き流れるように中に入る。
自然と奥から詰めていき、良いのか悪いのか、結果的に私は彼の隣に並ぶ形となった。
そばに感じるだけで緊張する。

こう言う場合、二人きりだとご近所さんに遭遇したような具合で挨拶せざるを得ない状況になるからいいのだが、人が多い中での挨拶はお互い顔見知りのパターンに限る。

こんな状況で挨拶なんてしたら、"え、どうして自分にだけ?" "知り合いだっけ?"と逆に怪しまれてしまうだろう。

ぐるぐる思考を廻らせ、よって、挨拶もできずただ隣に立っているだけになった。

だけど、同じエレベーターに乗れたことだけでも嬉しい。

こうして横並びになると、改めて彼の身長の高さがよくわかる。
抱きしめられたらすっぽり彼の身体に収まるのか…って、会社でよからぬ妄想繰り広げるんじゃない!私!!

邪念を振り払うかのように頭を強く振ると、不審そうな目線が突き刺さる。
急に恥ずかしくなり肩をすぼめ、人が多いのに物音ひとつない静寂なエレベーターの空気に同化するように存在感を消した。