「あの…」

自分の足元を見ていた視線の先に、影が差した。

顔を上げれば、大学生くらいの男の子が俺の方を見ていた。

今、俺に話しかけたんだよな?

「突然すみません!俺、たまにここで弁当売ってて、売れ残りなんですけど良かったら、これ!食べて下さい!」

そうして差し出されたのは、透明な蓋越しに見える色鮮やかな弁当だった。

旨そうだ…

一瞬で口の中に唾液がたまる程に、それはとても魅惑的な弁当だった。

しかし、"どうぞ"と言われて"どうも"と素直に受け取れる程、俺に純粋な心はないし、それなりに大人なので疑う心は持ち合わせていた。

それでも思考力が低下した今、"旨そう"に頭が埋め尽くされ、直ぐに断りの言葉が出てこなかった。

「あー…」

「決して怪しい者じゃないです!これ、お店の名刺です!」

差し出された名刺を受けとると、会社の近所の住所が書かれていた。

「カフェ…ForestVery?」

こんなところにカフェなんてあったか?

「はい!森をコンセプトにした大人の癒し空間を目指したカフェなんです!
あと、これお店のホームページです。」

男の子は自分のスマホを操作し、そのホームページ画面を俺に見せてくれた。


森…

癒し…

俺が探していた理想的なカフェじゃないか!