処刑直前の姫に転生したみたいですが、料理家だったのでスローライフしながら国民の胃袋を掴んでいこうと思います。

「はぁ……ものすごいスピードで育つとかいうチートとかないのかな」


茶碗いっぱいのご飯とササミフライが脳をよぎる。
それに想いを馳せてため息をついた。

ナスとトマトは成長を期待しよう。サニーレタスはそれっぽいのがまだ見つからないけれど、まあまあそこはご愛嬌。キャベツとかレタスで充分だろう。
チーズはなんとか手作り出来そうだし、シソの苗は発見済だ。畑に植え替え肥料を撒いたので、害虫さえ気をつければシソはどんどん増えてくれる。
そう。
サイドメニューと味噌汁は、刻々と準備が進んでいるのだ。

あとはメインだ。
ササミと、米! なんとか養鶏をして鳥さんを増やそう。小屋を建てられるような土地の目星はつけている。

最難関は米だ。
こんなにも長く米を食べていないのは、生まれて初めてじゃないだろうか。

日本人から米をとったら駄目だ。
禁断症状がでてきて、どんぶりいっぱいの米をかき込む夢まで見るようになった。米を食べたいという気持ちに囚われている自覚はある。
もしかしたら稲が見つかるかもという期待を持ちすぎたがゆえに、今日なにがなんでも、苗を見つけて帰りたいという気持ちが大きかった。


「そんなに焦らなくても、また来れるだろ? ゆづかが国の蓄えを気にしてくれているのは嬉しいが、そうなんでも一度には無理だぞ」

考え込んでいたわたしに、カウルは気遣わしげに言った。
肩を優しく撫でられる。
カウルにも、先ほどの不満が聞こえていたようだ。

周囲から、ここへ来たばかりの頃と同じ不満げな視線を感じた。
まだまだ城のみんなから、信頼を得るには至っていない。

ここまで来たいと言いだしたのもわたし。
なんとか行程を組んでくれた彼らに、無理を言ってついてきたのもわたしだ。
我が儘をたくさん聞いて貰っていて、いい加減にしろよ、という雰囲気が漂っていた。

せっかく少しずつ仲良くなってきたのに、これ以上粘ったら振り出しに戻ってしまいそうだった。諦めなくっちゃ……

焦る気持ちをぐっと飲み込んだ。
まだまだ探したい気持ちを無理矢理押さえ込みながら、カウルの説得に頷いた。