「奥の部屋に」

「へ? あ、はい」

奥の部屋に案内されると、天蓋付きの大きなベッドがあった。
肌触りの良さそうなシーツに、大きな枕が3つ無造作に置いてある。なんてゴージャスなんだ。この世界に、こんなふわふわ羽毛に包まれます、みたいなベッドが存在しただなんて。


「今夜からここで寝るといい」

「え? ここは?」

「俺の部屋だ」

「え?!」

「なんだ。不満か?」

「い、いいえ! そうじゃなくて……え、いいの?」

「いいから連れてきたんだろ」

「……そう、だけど」

こんな恵まれた部屋でわたしなんかが過ごして良いのだろうか。また反感を買うかもしれないし。
わたしは落ち着かなくて体をソワソワとさせた。
カウルは大きなため息をつくと、どさっとベッドに腰掛けた。

「また命を狙われたら困るだろう。俺が見張っていれば誰も襲ってこないだろうし、知らない間に打ち殺されたんじゃたまらん」

「……うん……」

「ほら、夜が明けてしまうから早く寝るぞ。朝から畑仕事をするんだろ?」

戸板を組み合わせた窓の隙間からは、うっすらと外が明るくなっているのが見えた。

「わっ」

カウルは勢いよく寝転ぶと同時に、わたしの腕をひっぱった。ばふんと隣に転がる。
ベッドはやっと慣れてきた青臭い香りではなく、ハーブのような優しい香りがした。
それを深く吸い込む。
ああ、ハーブを使った魚や肉の料理も、みんなに食べて貰いたいな。

「いい匂い……」

呟くと「香油だろう」とカウルが答えた。

「手がずっと震えているな」

「……あ」

「もう手出しはさせないから、安心していい」

カウルが手を握った。大きくごつごつとした手に包まれて、人の体温を感じるとなんだか急に気が抜けた。ずんと体が重くなり、眠気が襲ってくる。

これって羽毛とシルクかな。久しぶりのちゃんとしたベッドだ。あまりの気持ちよさに、体も思考もふわふわと揺れた。