処刑直前の姫に転生したみたいですが、料理家だったのでスローライフしながら国民の胃袋を掴んでいこうと思います。

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夜中に目を覚ますと、当たり前のようにカウルの腕の中だった。トイレに行きたくなって、起こさないように慎重に腕をぬける。

辛うじてテントと呼べるくらいの布を避けて、外へ出た。
まだ夜は明けきっておらず、空は薄暗い。
あと1時間もすれば夜明けだろうか。


焚き火のところへ行くと、番をしていたのは昨日、わたしの我が儘を怒っていた男の子だった。

名前を知ったのは昨夜で、彼はライトという。
リアより年下だった。まだ15歳で、入隊したばかりだと聞く。
ライトはデリクリエンツとの抗争で、父親を失っていた。

抗争の最前線へ送り出したのは、カウルの指揮による。その死に、リアは直接関与はしていないが、抗争の火種を作ったリアを憎んでいた。
城にも街にも、リアを憎む人しか居ない。


「ライト、ちょっとトイレいってくるね。あの、遠くには行かないから。すぐ戻ってくるね。一人で大丈夫なので付き添いは……」

「うるせーな。さっさと行けばいいだろ! 気持ち悪い喋り方しやがって」


ピシャリとさえぎられてしまう。
うん。ちょっと媚を売るような話し方だったかもしれない。気を遣ってこれ以上嫌われないようにと思ってのことだったが、会話って難しい。
ランタンにくべる火をもらうと、野営場所から死角になるところまでゆっくり進んだ。

森の中は色んな音がした。
遠くで獣が吠える声。虫や、風で葉が揺れる音などが、緊張して張りつめた神経にはよく響いた。
真っ暗な森は数メートル先もよく見えなくて、自分が踏み割った枝の音にもビクビクしながら進む。
木々の隙間から、ライトが見守る焚き火が見えなければ、怖くてトイレも行けやしない。

少し進むと、周囲からなんとなく甘ったるい不思議な匂いがした。花でも咲いているのかな、と鼻をひくひくさせる。

用を済ませると、早く戻ろうと足を速める。数メートル歩くと、真横の茂みが大きく揺れた。