処刑直前の姫に転生したみたいですが、料理家だったのでスローライフしながら国民の胃袋を掴んでいこうと思います。

「本当か? ゆづかは子供のように消毒を嫌がるからな」

消毒は嫌じゃない。
舐められるのが恥ずかしいのに、カウルはそれを分かっていない。

「傷を確認するから、足を見せてみろ」

「っだ、大丈夫だってば……!」


狭いテント内で抵抗を試みたものの、片足を肩に担がれるという、あられも無い格好で勝負を終えた。撃沈だ。総長様に力で敵うはずがない。
大開脚をし、捲れ上がった衣服を気にしているのはわたしだけだ。
恥ずかしいから早く足をおろさせて。


「ふむ。血はとまっているようだな」

「ちょっと転んだだけじゃない。大した傷じゃなかったもん。本当に大丈夫だってば」


必死に申し立てをすると、納得したカウルは足をおろして、ふっと表情を和らげた。


「昔のリアは、ちょっと怪我しただけでも、傷跡が残るって大騒ぎだったんだ」


ふと、自分の体を見下ろす。そういえばそうだった。
自分はあまり気にしないたちでも、もしかしたらこの先、リアの意識に戻ってしまう事もあるのかもしれない。

なんで今までその可能性を考えなかったのか。
それならば、人の体を借りているのだから、大切にしなければならない。

腕や足は生傷だらけ。
リアが大切にしていたという髪の毛はボブほどに短くなっているし、以前より確実に日に焼けていた。

いまこの瞬間に体が戻ったら、リアは憤慨するだろう。
もしリアの意識が戻ったら、わたしはどこへいくのかな。
元の世界では死んだと思っていたけれど、それを確かめたわけじゃない。
本当はどうなっているのかな。

リアの意識は眠っているだけで、彼女の意識が戻ったら、わたしは今度こそお役御免で死後の世界へ行くとか。


ありがちなパターンを幾つか考えて、やっぱりわからなくて諦めた。

やめやめ、考えたって正解なんてわからないもん。
その時が来たら受け入れればいい。とりあえずわたしは、今を精一杯がんばるしかないのだから。