一九六四年、十月十日。

 今日は東京オリンピックの開会式を三条家のカラーテレビで見ようと、みんな集まっていた。

「酒屋、まだ酒を持ってこないのか」
と三条家の当主となり、すっかり落ち着いた行正が咲子に訊く。

 へらっとした笑顔が相変わらずな妻、咲子は、
「あ、私見てきましょうか」
と美世子や文子たちと座っていたソファから立ち上がる。

 開会式はもうはじまっていた。

「奥様、私が行ってまいります」

 清六と結婚し、長年、夫婦ともに住み込みで働いてくれているユキ子が言うが。

 彼女は生まれたばかりの咲子たちの孫を抱いていたので、行正は、
「いや、俺がちょっと見てこよう」
と言って、外に出ようとした。

 だが、そんな行正の腕をつかみ、咲子は慌てて止める。

「あっ、そうだっ。
 待ってくださいっ。

 今、外に出ると大変なことがっ」

「なんだ、大変なことって?」
と振り返る行正に咲子は叫ぶ。