「私の言うこと、信じてくださらないのですか?」
と咲子にさみしげな顔で言われた行正は、

「お前の言うことなら信じたいが……」
と言いかけ、口ごもった。

 しまったっ。

 こいつの心が読めるとかいう妄想に付き合うべきだった。

 俺のことだけ読めないとか言ってるから、それを認めれば、俺だけ、こいつの中で特別な存在、みたいな感じになれたのにっ。

 だが、もう遅い。

 咲子は、
「忘れてください」
と言って、しょんぼり歩き出す。

 行正も、内心、しょんぼりしていた。

 咲子の特別な存在になりそこねたからだ。