「それでは天気予報です。あと二十四時間後に夜明けが訪れ『極夜』が終わります。地球の自転速度が現在と同様の十七分の一であれば、『白夜』の期間は十日間になります。最高気温は五十八度以上に達し――」

 ついに最後の日が来てしまった。あかねは天井を仰いで大きく息を吐く。

 すべての原因は地球の自転が遅くなったこと。温暖化で対流が変化したとか、プレートが歪んだとか、地球の寿命だとか、いくつか仮説はあったけれど、真相は誰にもわからない。専門家が分析しても、その手がかりは見つからないままだった。もちろん、その解決法も。

 ソファーでは父が眉間にしわを寄せテレビをにらんでいる。連日連夜の仕事のせいか疲れが溜まっているのだろう。その顔はひどくやつれたように見える。

 台所では母が夕食の支度中。いつものようにピーラーの規則正しく皮を削ぐ音と、湯気を噴き出すやかんの悲鳴が聞こえてくる。

 皆、なるたけ普段通りの生活を最後まで守ろうという、美徳にも似た努力をしている。煌々と炎がゆらめく暖炉の前にいるのに、あかねの心は冷えきっていた。