「あかね、今日のイベントは誰と誰だ?」

「まったくもう、急に学校行きだして何なのよ、もうっ」

「だってマスコミが煩《うるさ》いんだもーん。避難だよ、避難」

 しおんは軽いステップを踏みであかねの腕を引く。しおんにしては珍しく上機嫌で笑顔を振りまく。

 まだ夏の暑さは厳しいけれど、今日の登校時、お天道様は水平線の下へ姿をくらましていたから快適だ。ひんやりとして秋の匂いを乗せた風があかねの頬を撫でる。

 見上げると群青の空に銀色の月光が空いっぱいに浮かぶうろこ雲を縁取る。

 ようやっと芽吹いた木々の新緑が風になびいてさらさらと囁きかける。活気付いてきた世界に乗り遅れまいといまさらあわてた梅の花が甘い香りを夜空に解き放つ。

「もうっ、しおんくんたら子供みたいで恥ずかしいじゃない!」

 しおんがはしゃぐのもあかねにはわかる。しおんは今や時の人。政府の裏の政策を暴き、誰も解明できなかったこの異常現象――自転の遅延――の謎を解き明かした天才高校生として一躍有名人になってしまった。