あかねが目を覚ますとそこはいつものリビングだった。目の前にはもはや使われることのなくなった暖炉が静かに佇んでいる。
　
　父に連れられ家に帰ってきて、ソファーの上に倒れ込んだところまでは記憶があった。どうやらそのまま眠りに落ちてしまったらしい。身を包んでいたふわふわの掛け布団をめくり返してのっそりと起きだすと、気づいた母がパタパタと駆け寄ってきた。
　
　哀れむような顔をして、あかねを優しい声で慰める。
　
　「あかね、大変だったのね。すごく傷ついたでしょう。お父さんとお母さん、あかねが脅迫されていたっていうことを知らなくて、あんなに怒っちゃってごめんなさいね。
　何をされたっていうの……ううん、言いたくないでしょ？　言わなくていいのよ、あの悪党、高槻　しおんは世界の終わりが来たらもうこの世からいなくなるんだから、安心してね。これからは家族でずっと一緒に暮らしましょう」

　母はあかねに最大限の気遣いをみせ、肩に手を回してあかねを抱き寄せる。

　あかねは体を丸めて、ひどく落ち込んだフリをする。