既にその場に立っていた司祭は、二人を等分に見やると頷いて口を開いた。

「これより、エルヴェ・グランジュならびにレティシア・オービニエの婚姻の儀を執り行います。異議のあるものは?」

 慣習通り、たっぷりと時間を取って、司祭は周囲を眺め回した。だが、当然のことながら異議の声が上がることはない。
 再び頷いた司祭は、視線をエルヴェとレティシアの二人に戻した。

「異議のあるものなし。それでは、これより二人には夫婦としての……」

 手順通り、司祭の説教が始まる。だが、エルヴェは既にそれをほとんど聞いていなかった。隣に立つレティシアのことばかりが気になってしまうからだ。
 ——良い匂いがする……早く顔が見たい……。
 そわそわちらちらと視線を走らせるエルヴェとは違い、レティシアはじっと司祭の言葉に耳を傾けているようだった。それがなんだか悔しくなって、小さく咳払いをする。
 ——あとどれくらい経てば、二人きりになれる……?
 レースの編み目から見えるレティシアの肌に早く触れたい。この一年、ずっとこの日を待ちわびていたのだ。
 もう待てない。純白の花嫁衣装を早く脱がせて、余すところなく彼女の身体全てに触れたい——。

「ん、それでは……神の御前で誓いを」

 はっと気付いたときには、もう結婚式も終盤にさしかかっていた。そこまでにエルヴェが発言するべき場面もあったはずだが、無意識にこなしていたようだ。司祭の言葉に促され、レティシアのほうへと身体を向ける。彼女もまた、同じように体勢を変え、二人は祭壇の前で向かい合った。