自分に言い訳しながら、レティシアは剣帯に巻き付けて使う飾り布にグランジュ公爵家の家紋と、それから勝利の女神であるポレルの紋章とを刺繍して仕上げていく。騎士が身に着けていられるように、ということで定着した、昔ながらの勝利のお守りだ。
 約三日ほど集中し、寝食もそこそこにして作ったお陰で、自分でも納得の出来映えだ。これならきっと、彼も文句はないはず。
 侍女に頼んで綺麗に包んでもらうと、レティシアはそれを騎士団宿舎で寝泊まりしているエルヴェに届けるよう言い付けた。

「あら、お嬢様が届けに行かれないのですか?」
「なっ……なんで私がそこまでしてやらないとならないのよ」
「いえ……その方がグランジュ卿はお喜びになるかと……」
「だ、だから……私は別に、エルヴェを喜ばせる義理なんかないんだから……! で、でもそうね……激励しなかったから突破できなかったなんて言い訳に使われたら腹が立つわね。わかった、直接行くわ」

 そう言いながら、途中で腰を浮かせたレティシアを、生温い目で見てから、侍女は「では、馬車の用意を言い付けて参ります」と出て行く。
 その後ろ姿を見送って、レティシアはそわそわと外出の用意を始めた。