今日は梨夜は勉強会に来れないと事前に連絡があったらしく俺と鬼姫様と先輩が会議室に集まっている。俺の成績に不満があるらしく鬼姫様から呼び出しがかかったからだ。

「ところで気になっていたんだがどうして放課後には風紀委員がいないんだ?いつも鬼姫様と先輩しかいないじゃないか」

「資料の整理などはわたくし1人で十分ですし、群れても会議が進まないことも多いですからね。忙しくない日は構内の見回りと近隣の巡回をお願いしております。もちろん何もなければ早めに帰ってもらっております」

「次の委員長を育てなくてもいいのか?」

「あら?羽藤さんはわたくしが風紀委員会の委員長であることが不満なので早く引退してほしいと、そういうことでしょうか?」

「いや、平先輩だって2年生の時に引退しているわけだし。風紀委員会というのは引退が早いのかなと・・・」

「たしかに先輩の引退は早かったですが、今でもこのようにサポートとフォローをしてくれます。まぁ1年の最初の頃、とくに編入組のわたくしが風紀委員会委員長に任命された時はびっくりしましたが・・・。それにわたくしはまだ引退するつもりはありません。先輩たちが築いてくれた風紀委員会の委員長に相応しい方を見つけるまでは」

「まだ候補はいないのか?」

「いないことはありませんがまだ任せていいと思える方はいらっしゃいませんね。先輩からはよく育てればいいと言われてますがわたくし自身の感性も大事にしたいと思ってますので」

「詩依は本当に自分にも他人にも厳しいからな」

「わたくしが厳しいのではなく先輩が緩すぎるのです。わたくしを風紀委員長に推薦してくださったことには感謝はしておりますが、外部の人間でかつ2ヶ月も経ってなかったのに推薦させるというのは早計にもほどがあると思わなかったのですか?」

「私は自分の直感を信じただけだ。もし私の感が間違っていても、あとあと私がフォローすれば良いだけだったから。結果的に今の学園の風紀は安定しているわけだしね。だから後任というのはそんなに難しく考えることはないと思うんだけどね」

たしかに鬼姫様は編入組で1年の5月には風紀委員会の委員長に就任していた。
異例の就任スピードだった。
一説によれば先代である先輩が飽きてしまったからとかささやかれてはいたが、先輩はそんな方ではない。
最近梨夜のおかげもあって先輩と話す機会も増えてきた。
変わり者ではあると思うが自分が一度請け負ったものは必ずまっとうするし、自分が推薦した鬼姫様のこともしっかり支えている。
今だって鬼姫様が業務に忙しいからと言って俺に勉強を教えてくれているし、梨夜の面倒も見てくれている。
普段は鬼姫様とじゃれ合っているが本当に大変になったら支えてくれるのだろう。
だからこそ、他の風紀委員をこの場に残すことをしなくても仕事が回るのだと思った。

「あとね、詩依は神経質だから放課後に風紀委員を呼ばないんだよ。自分の時間を誰かに見られるということを非常に嫌っていてね。そんな外聞なんて気にすることじゃないといつも言っているんだけどね」

「え?じゃあ先輩はともかく俺がいるのって迷惑なんじゃ・・・」

「それは心配しなくてけっこうです。羽藤さんのことはそこら辺にいる虫みたいなものと割り切っております。虫なんかをいちいち気を使っていたら夏場なんて気がおかしくなってしまうでしょ?それと同じ感覚ですからどうぞ勉強に勤しんでくださいませ。この学園から落第者を出す方がよっぽど迷惑です」

「あ・・・はい」

「本当に詩依は素直じゃないなぁ、まあ今に始まったことじゃないからいっか」


「ところで羽藤さん、そろそろ学園で秋の学園祭がございますが、もうすでに梨夜さんを招待されているのですか?」

「は?俺が?なんで?」

「何でももないでしょう、学園祭は大きなイベントで一般公開されておりますが、中学生が1人で来ようと思うには敷居が高すぎるでしょう」

「じゃあ鬼姫様が招待すればいいんじゃないか」

「はぁ?わたくしは当日も風紀委員長として仕事があるのですよ。招待しても一緒に回ることが出来ません。誘うだけ誘って一緒に回らないのではあまりに可哀想ではありませんか」

「だからと言ってもなぁ、俺も・・・忙しいし」

それを聞いた鬼姫様の眉が一瞬だけ釣りあがるのを見逃さなかった。出来ることなら見間違いであってほしかったが・・・。

「羽藤さん、貴方がどう忙しいのか教えていただいてもよろしいでしょうか?貴方がわたくしよりお忙しいというのでしたら別の方にお願いしてもよろしいですが?」

風紀委員会は普段の雑務の量もえげつないが、学園祭などのイベントごとの前後は本当に忙しいらしい。
そしてイベント当日に羽目を外す生徒を監視するのも風紀委員会の仕事である。

学園祭実行委員会も作られるが臨時で作られる集まりでは対処出来ないような問題も風紀委員会が対応する。

だからこそ風紀委員会の学園での地位が高いのである。

進路相談、風紀向上、イベントの円滑な進行の手助け。
先生方の手伝いなども行うため特別にたくさんの権限が与えられている。

その気になれば部活の予算も風紀委員会の一言でどうにでもなるし部活1つ潰すくらい造作もない。
ただ風紀委員会自体がその必要性を感じていないため部活の予算会議には参加していないらしい。

そんな忙しい鬼姫様が自分より忙しいのですか?と聞いてくる。
嘘でも忙しいと言える人はたぶんいない。

「い、いいえ自分で誘います」

「わかってくださったことに感謝いたします」

「詩依も中3の時に1人でこの学園の文化祭に来たから1人の心細さを知っているんだ。1人で校門の前でたたずんでいた詩依を学園に案内したのが私だからね。あの時はまだ幼げを残して初々しくて可愛かったのにどうしてこんな女傑になってしまったのか・・・」

「先輩!そんな昔のことはどうでも良いでしょ!と、とにかく梨夜さんはこの学園を受験するのですから学園の雰囲気にも触れてほしいと思います、わかりましたね。梨夜さんに楽しいと思ってもらえるかは不問としますが、少なくても寂しいとか心細いと思わせることのないように!」

「善処します・・・」

「善処や努力しますという言葉は信用出来ませんがまぁがんばってください」