放課後いつものように勉強会にお邪魔すると柳也さんもいたため、今日は柳也さんに勉強を教えてもらっている。

「毎回本当に申し訳ありません、本来わたくしが教えてあげなくてはいけないのですが業務がありますので。それに今日も先輩は来ますが少々遅れると連絡がありましたからその間は羽藤さんと一緒に勉強をしていてください」

「・・・はい、お気になさらず・・・業務に専念してください」

「ありがとうございます、梨夜さんは本当にお優しいのですね。早めに終わらせてしまいますからそれまでは羽藤さんお願いしますね」

「鬼姫様の代わりになれるかはわからないががんばりますよ」



・・
・・・

「ぉぉ、合っているんじゃないか」

「はい・・・先輩に教えていただいた単元ですから・・・正解するのは当たり前かと」

「何回やっても出来ないやつは出来ないからな」

「あら羽藤さん、貴方がそれをおっしゃいますか?この前わたくしが教えた単元を貴方は・・・まぁ今日は何も言わないでおくとしましょう」

「相変わらず手厳しいな」

「柳也さんって・・・そんなに勉強・・・出来ないのですか」

「そ、そんなことはないぞ、俺に解けない問題はないからな」

「・・・は、はぁ・・・」

「梨夜、お前は信じてないな?俺はまだ本気を出していないだけなんだよ」

「あら羽藤さん?風紀委員会は進路指導も携わっていることはもちろんご存知ですよね。この前の定期テストの点数を梨夜さんに開示してもよろしいのですけどいかがいたします?」

「正直、すまんかった」

「・・・大丈夫です。柳也さんが・・・あまり勉強出来ないのは・・・なんとなくわかってました」

「おい梨夜、お前」

「ところで柳也さん・・・この問題の解説を・・・お願いします」

「どれどれ・・・・・・・・・むむ」

「どれほどのレベルの問題かはわかりませんが羽藤さんには少々難しいようなので後ほど先輩に解説をお願いしましょう。それにしても中学レベルの問題で悩むなんて、学業こそが学生の本分であることを自覚していらっしゃいますか?」

「ごめんごめん、先生の手伝いをしていたら遅れてしまってな。さすがに皆集まっていたか、ごめんごめん」

「あ・・・先輩、・・・お邪魔しております」

「毎日勉強に精が出るなぁ。この学園の生徒たちも君ほどとまではいかないにしても見習ってほしいものだよ、進学実績は後輩たちの励みになるからな」

「先輩のおっしゃるとおりですね。先輩も良い大学に進学してくだされば風紀委員会の実績としても箔がつくのですが」

「風紀委員会の実績も大事だけど私は自分が行きたいと思う大学に進学するつもりだけどね」

「白鷺学園高等部の風紀委員長を務めたというだけでも進学にかなり有利ですし、成績も文句ないのにですか?」

「良い大学に入るだけならどこでも入れる自信はあるし、学園の先生たちからも学園の実績についても色々言われている。けれど楽しい大学ライフを過ごしたいから大学の雰囲気も大切なのだよ。さて、梨夜君は何を悩んでいるんだい?」

「この・・・連立方程式の問題なのですが・・・」

「ほうほう、連立方程式は2つの方程式を作るわけだが距離の問題はたいていの場合、道のりと時間の方程式を作るんだよ。もちろん時間なんてそのまま出ていることはほとんどないから速度を使って時間を求めるんだよ」

「なるほど・・・です」

「だからね、道のりはここの数字を使って、速度は出ているからそれぞれの時間を求められるよね。Aがかかった時間とBがかかった時間、そして合計の時間だね。時間を求める時は時間の単位を合わせることを忘れてはいけないよ。分なら分で、時間なら時間に。この問題なら時間で合わせてやってみようか」


・・
・・・
「そう言えば昨日の夜、いつもの場所に梨乃が行ったらしいな。今日はずっとあいつが俺に話してきたぞ。あいつが授業中に眠そうになるのは珍しいからそうとう楽しかったんだろうな」

「あ・・・やっぱり寝不足になってしまったのですか・・・」

「あいつの場合は睡眠時間が異常なだけだから気にするな。平日に10時間寝ないと眠いとか言い出すあたり今どきの小学生だってそんなこと言わないだろうにな。たぶん今日は眠いと言っていたから無理だろうけれど、明日また梨夜のところに行くと言っていたからあいつの話を聞いてやってくれ」

「はい・・・、でもはたしてまた来てくれるのでしょうか?社交辞令みたいなものだったのでは・・・ないでしょうか」

「安心しろ。あいつは社交辞令なんて言わないし嘘もつかない、そこは俺が保障してやる。明日行くと言ったなら必ず行く、そういうやつだよ」

「なになに?面白そうな話をしているね、お姉さんも混ぜてよ」

先輩が面白そうと思って寄ってくる。

昨日、私のお気に入りの場所に柳也さんの幼馴染さんが来たことを話した。

「ほお、そんな素敵な場所があると言うのなら私も行っていいかな?気になるし」

「・・・え」

ほんの少し戸惑った様子を詩依さんは見逃さなかった。

「先輩はやめておいた方がいいと思いますよ。その場所は梨夜さんにとってとても大切な場所なのですから土足でづかづか入るような無粋はよろしくないですよ」

「ちぇっ・・・」

「それにしても羽藤さん。貴方はその平日に10時間寝ている咲麗さんに定期テストの結果で劣っているのですが、それについて弁明をお願いしてもよろしいですか?」

「あいつは要領が良いんだよ、睡眠時間確保のために全力だし」

「本当に要領が良いだけでしょうか?以前放課後に図書室でお会いしたことありますがそれなり努力をしておりましたよ。努力した者すべてが結果を出せるわけでもありませんが努力なくして成功はありません。わたくしからすれば咲麗さんも決して点数が高いわけではありませんが、彼女なりに色々と努力していらっしゃるのでしょう」

「あいつが努力をねぇ、買いかぶりすぎるんじゃ」

「咲麗さんの定期テストの結果だけ見れば努力なしでは考えにくい点数ではあります。羽藤さんも勉学に励んでください。来年には受験生なのですからそろそろ本格的に受験勉強をしないといけませんよ」

「・・・私・・・受験勉強の・・・お邪魔でしょうか」

「いいえ梨夜さんは心配しなくて大丈夫です。羽藤さんはそもそもまだ受験勉強をしている形跡もなければ、高校受験の内容もおぼつかないようですからね。復習という意味では良い機会になっていることでしょう」

「詩依の言うとおりで基礎固めはとても大切なんだ。基本をおさえてない状態で応用は出来ない。もし出来たとしても他の応用が出来るとは限らない。時間がなければ応用だけをおさえる勉強法もあるけれど梨夜君も羽藤君ともまだ時間はあるからね」