そんなことがあったなんて……。

お母さんの必死に謝る様子に、記憶の中の俺が許していく。



「ごめんなさい…気付いてたのに、その気持ちわたしもわかるのに、同じことさせてごめんなさい」



そういえば昔、俺が寝付けないときに話してくれたっけ。



『わたしは優等生の位置を強いられてたから少しの失敗でもしたら、周りからの失望した声が大きくて、それを聞いて辛くなって逃げ出したくなったの。でも逃げる場所なんてどこにもなくて、絶望的だったなぁ』



『でもね、好きな人が救ってくれたんだよ。頑張らなくてもいいんだよ、君の人生があるじゃないか、って。ちなみに、その人がパパだよ』



『なんて、難しかったかな。ふふっ』



って、悲しそうに、嬉しそうに笑ってたな……。



「お母さん、俺の方こそ気付いてあげられなくてごめん。お母さんだけに背負わせてごめん」



「わたしのことはいいの。だけど、あなたはまだ若いじゃない。だから大事な未来を消しちゃって、怖かったの。本当にごめんなさい」



頭まで下げてくるお母さんに慌てる。



「頭をあげて。俺は大丈夫。したいこと見つけられてるから」



「あなたの方が大人ね。わたしはまだ子供だわ、ふふっ」



「…俺決めた」



今、決めた。


不思議そうな顔をしているお母さんに言う。



「勉強とサッカー両立するから」



「えっ!したいことについては口出さないけど、そこまでしなくていいわよ」



お母さんが驚きの声を上げる。



「もう苦しませたりしないから」



そう笑いかけた。



「…ありがとう」



久しぶりに見た。朝日のような笑顔。


やっと俺のレールを歩ける。



「お母さん、ありがとう」




こんな報われることを感じたことも、この安心感も、やって良かったという勇気を出したことも全部。



“この先、これ以上の幸福感はないだろう”