家に帰ってから、いつものように部屋へ向かうのではなく……俺の前にはリビングへの扉。
俺は覚悟を決めたんだ。だから……。
深呼吸をして、取っ手を下げた。
「お母さん」
「あら、何?」
食器を洗っていた手を止めて、俺に向けられた視線。
あれ、お母さんってこんな顔をしてたっけ…。
今日はいつもの視線と違った気がした。
今なら言える。そう思ったから。ずっと秘めていた想いを言った。
「お、俺……サッカーに集中したいから勉強しないさいって言うのやめてください」
頭も下げて言う、初めて言葉にした夢。
「……サッカー、を?」
お母さんと俺の間は、時が止まったように感じた。
この空間に流れる緊張。
やっと言葉にしたが、返ってくる言葉も怖い。
「サッカーをしたいんです……!だから…俺の人生を生きさせてください…」
今までの辛い出来事が脳内を走る。
消えない記憶を思い出して歪んできた視界。
もう涙なんて流したくない。
必死に堪える。
「俺っ、勉強嫌いじゃないけど、それよりもしたいことが見つかった。支配なんてもうされたくないんだ…っ」
黙って俺を見つめるお母さん。
何を考えてるのかわからない。
何を、言われるのだろうか……。また認めてもらえなかったら、同じ日々の繰り返しだ。
そんなの嫌だ。今の生き方を変えたい。誰かに寄りかかってるんじゃなくて、自分の足で立てるように……。
「ごっ、ごめんなさい…!」
「……え?」
予想外の発言に目を見張る。
「わっ、わたし、近所の付き合いで失敗しちゃって、だからこの家族みんな馬鹿にされて笑われないように高くいないと、って……だから無理させて…っ…」
赤く腫れた目で涙しながら、俺に話してくれた。
嗚咽を漏らしながら語る。