「お前は良いよな。何でもできて」
……は?
羨むようにぼそりと呟かれたその一言に、怒りをぶちまけそうになった。
俺だってたくさん苦しんでいるのに、そんな風に軽く言うな。
周りから悩みがなさそうって思われてるのか?
あぁ、理解した。
高橋の思考は何でもできるから、悩みがなくて羨ましいってことか……。
複雑な気持ちで冷静になって思考を巡らせていると、気付いてしまった。
俺だって、同じだった。
誰だって他人が羨ましくなる。
それは、他人が見えるものは表しか見れないから。
「何にもできるからこそ、無責任な期待ばかりされて悩みしかないよ」
初めて、他人に自分のことを話した気がする。
「大人の勝手な都合で俺の人生をつくる。いつの間にか周りの目が突き刺さってくるようになった」
とてと生きづらい。
「あ……ごめん。人の事情知らずにあんなこと言って。ムカついたよな……」
高橋もハッとして、申し訳なさそうな顔をして謝ってきた。
「いや、俺も同じだったから気にせんでいいよ」
そう言っても、高橋の複雑そうな表情は消えなかった。
「ありがとな……この時期ってこんなにも苦しいもんなんかな」
これって思春期だから、心がこんなにもかき乱されるのか?
…いや、違う。
「こんな環境だってこともあると思う」
家庭環境がこんなにも首を絞めにきてるんだ。
「そうだな。俺さ、好きな人いるんだ。でも全然振り向いて貰えそうにないんだ」
「うん…」
「だから、周りからどう思われてるんかなとか気にして、友達とふざけることが恥ずかしくなってきたんだ」
あーだから、最近ふざけ合ってるのが減ったんだな。
「友達優先になってきて、家に帰るのが遅くなったのは俺が悪いんやけど、怒られても怒られてることがウザくなって、反省しないといかんのに親に反抗しかできんくて…」
心と体が別々みたい……。
そう言った高橋の姿に胸が締め付けられた。