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 ようやく三本目の用水路が完成した。

 最後の仕上げに、完成した用水路と貯水池をつなげて、水が傾斜に沿って勢いよく流れ落ちて行くのを眺めつつ、ふーっと息を吐きだす。



 地道に計画通りの場所に用水路を作らなくてはならないから一つ作るのにも数日はかかるのだが、各地に貯水池を作ったから、用水路の完成が遅くなっても水不足の心配はない。

 しかし、この暑い中、貯水池までせっせと水を汲みに来るのは大変だろうから、できるだけ早く完成してあげたいものである。



 氷の販売も順調だ。大きな氷の山を銅貨十枚――多少の誤差はあるが日本円で千円くらい――で販売したところ、全部の村と町から購入申請が入った。用水路を作りつつ頻繁に村や町へ氷を作りに行けないので、ここは出血大サービスとばかりに、炎天下の中でも二週間は持ちそうな超巨大な氷の山をそれぞれの村や町の近くにドーンと作って時間稼ぎをしている。



 わたしが大盤振る舞いをしたせいで今年の氷の収入は大したことなさそうだけど、まあ仕方がないよね。

 さてと、今日の作業はこれで終わりだから、お城に帰りますか。

 馬車に乗り込むと、ふわりと美味しそうな桃の香りがする。馬車の座席上に置いている籠の中には、桃が十個ほど入っていて、これは用水路づくりをしていた時に近くの町の町長が差し入れで持ってきてくれたのだ。

 いい匂いに、おなかがぐぅと鳴って、ミナがくすくすと笑う。



「帰ったらさっそくお出ししますね」

「うん。ありがとう!」



 数は十個だが、それぞれがとても大きいので、少量ずつなら古城のみんなにいきわたるだろう。

 最近ではこういった差し入れがとても増えていて、使用人のみんなが密かに楽しみにしていることをわたしは知っている。



 馬車が古城の玄関前に到着すると、桃が楽しみなわたしは、ぴょんと元気よく馬車のステップから飛び降りた。

 さあ、この桃は甘いものかな。どうかなあ。

 ルンルンとスキップしながら玄関の扉をくぐったわたしは、しかしそこでギョッとして足を止める。

 え?

 あれ、なんか幻覚が……。



「……お前。馬車から飛び降りたら怪我をするぞ」



 あれれ、なんだか幻聴も……。

 わたしはじーっと玄関の前で腕組みしている背の高い男を見上げて、こてんと首を傾げた。



「陛下……、なんで?」



 そこにはつい先日帰ったはずのマクシミリアン皇帝が、立っていた。