「私、八島璃子と言います」

今まではフルネームを名乗る機会がなかった。
だから、荒屋さんも初めて聞いたはず。そして、八島って苗字もそんなに多い名前ではない。

「もしかして」
「はい、八島茉子の妹です」

ずっと隠していたのに。とうとう言ってしまった。

「そうか、葬儀の時に会った?」
「はい」
「髪が短くなったからかな、印象が違ってわからなかったよ」

そうだろうと思う。
もちろんそう仕向けたのは私自身。

「それで、今ここで名乗るからには話があるんだろ?」
「ええ」

私は今、登生の父親を捜している。
姉の暮らしていた周辺に住み、関わった人たちを観察しながら、手がかりを集めていた。
そんな中で一番可能性が高いのが荒屋さんだと思う。
少なくとも、姉の側にいて親しくしていた同期で友人。恋人関係にあったかは定かでないけれど、身近にいた人に違いないと思っている。
だから、

「荒屋さんが、登生の父親ですか?」
私は真正面から質問をぶつけた。