「どう、美味しいだろ?」
「ええ」

確かに、荒屋さんが美味しいっていうのが納得のお味。
一つ一つの料理に手が込んでいて、盛り付けもきれいで見ているだけで楽しい。

「よかったら今度は、おすすめのスペイン料理店に案内するよ」
「はあ」
ためらいが声に出た。

「どうしたの?彼氏が出してはくれないのかい?」
「え?」

驚いてポカンと口を開けたまま固まった私を、ニヤリと見る荒屋さん。

「璃子ちゃんを見ていればわかるよ。誰かと暮らしてるんだなってね」

淳之介さんのことも登生のことも隠しているつもりだった。まさか荒屋さんに気づかれていたなんて。
荒屋さんの洞察力がすごいのか、私の詰めが甘いのか、どちらにしてもこれ以上誤魔化しはきかないようだ。

フゥー。
グラスを置き、大きく息を吐いて、私は荒屋さんに視線を向ける

「実は荒屋さんに聞きたいことがあって、私は今日ここに来ました」
「うん」
まるで予想していたかのような静かな反応。

荒屋さんは表情一つ変えることなく、私を見つめている。