週末金曜日の夜。
いつもだったら登生にご飯を食べさせて、お風呂に入れている時間。
「たまには息抜きしておいで」と言ってくれた淳之介さんに登生を預けて、私は今荒屋さんと2人で食事に来ている。

「まさか璃子ちゃんが来てくれるとは思わなかったよ」
「そうですか?」

麗華が中野商事に勤めるようになって、荒屋さんと話す機会が増えた。
特に、先日麗華との喧嘩を仲裁されてからは態度にも語り口にも遠慮がなくなった気がする。
そんな中、「璃子ちゃん、よかったら今度ご飯に行こうよ」と誘われたのが1週間前。登生のこともあり少し迷ったけれど、結局「行きます」と返事をした。

「それで、今日はなぜ僕の誘いに乗ってくれたの?」

自分でしつこく誘っておいて、なぜ来たのかなんて変な質問。
でも確かに、普段の私からすると意外な行動に見えるのかもしれない。

「来ない方がよかったですか?」
「まさかぁ」
大げさに驚いて見せる素振りが、いかにも営業さん。

この人は淳之介さん以上に本心が見えない。
表面上笑っているのに冷たい目をしていたり、『かわいいね』『綺麗だね』と言う口癖のような言葉もすごく嘘っぽい。
だからこそ直接会って、話してみたかった。
私にはどうしても荒屋さんに聞きたいことがあるから。