「私ね、今日から中野商事で働くのよ」

私の方を見ながら嬉しそうに話すのは、田頭麗華(たがしられいか)24歳。
中学高校時代のクラスメートで、地元選出国会議員の娘。
その上お母様は元華族のお嬢様、とにかく有名人だった。

「そう、それはおめでとう」
中野商事は一流企業だから、そこに入れるってことはすごいことなのだろう。

「誤解しないで、私はただ結婚準備のために中野商事に入社しただけだから」
「へー」

麗華は学生時代から働く気がないと言っていた。その証拠に、大学を卒業しても就職はせずに花嫁修業と称して遊んでいた。将来はお金持ちの男性と結婚するのが夢だったはず。

「おいおい、仕事はちゃんとしてくれよ」
荒屋さんの突っ込みに、
「わかってますよ荒屋さん」
ちょっと頬を膨らませ、上目使いに見る麗華。

相変わらずね。
10代の頃から、麗華は男子の間では人気者。
私たち同性から見ると嘘っぽく見える態度も、男子からするとかわいく映るらしくて、いつもモテモテだった。
嫌だな、こんなところで再会するなんて。