「奥がゲストルームだから好きに使って。必要な物はたいていそろっているはずだけど、足りないものは言ってくれればすぐに用意するから」
「ありがとうございます」

結局中野さんのお家に一晩だけ泊まることにした。
あまりよく知らない人の家に泊るなんて非常識なのはわかっていたけれど、今から登生を連れてアパートへ帰るだけの気力が私に残っていなかった。

広くてきれいで立派な中野さんのマンション。
何よりも防音が効いていて、泣き声や物音を気にすることなく暮らせるのがいい。
今までは利便性しか考えてこなかったけれど、住む家の環境って大切なのだと実感した。
こうなったら今のアパートを出て少し郊外に引っ越す方がいいのかなあ。
職場から遠くなることや、引っ越しの費用も心配ではあるけれど、登生の健やかな成長が一番。明日になったら不動産屋さんに連絡してみよう。

その晩、私は1週間ぶりにゆっくり眠ることができた。