「登生くんすっかり眠ったみたいだね」
「ええ」

マンションに来てからも泣いていた登生。
初めは泣き声が周囲に迷惑じゃないだろうかと私も気にしていたけれど、「完全防音だから大丈夫」と言われ気が楽になった。
そんな私の気持ちが登生にも伝わったらしく、しばらくすると嘘みたいに眠ってくれた。

「事情を聴いてもいいかな?」
「はい」

ここまでお世話になっておいて事情を話さないのもおかしいと、私はこの1週間の様子を伝えた。
夜泣きがずっと続いていたことを聞いた中野さんは驚いた様子だった。

「大変だったね?」
「ええ」
そこは否定しない。

実際ここ1週間、私はあまり睡眠がとれていない。
食欲もないし、体もだるいし、本当に疲労困憊って感じ。

「登生くんも眠ったことだし、今夜は君も泊って行くといいよ」
「いや、それは・・・」
あまりにも申し訳ない。
「いいんだよ。外泊なんて嫌かもしれないけれど、このままじゃ君が参ってしまうから」
「でも・・・」
「辛いときは素直に甘えなさい」
ポンと肩に手を置き優しく笑った中野さん。
その表情に裏があるようには見えない。

私は「子育てがどれだけ大変か知りもしないくせに」と罵ったことを猛省した。
いくら自分に余裕がなかったからとはいえ、絶対に思ってはいけなかった。