「ねえ、璃子ちゃんっていくつなの?」
唐突に、カウンター席に座る常連の荒屋浩平(あらやこうへい)さんが聞いてきた。

「24歳です」

本当なら答える必要はないと思う。これも一応、ハラスメントの一種に思える。
でも、わざわざ隠す必要もないだろうと私は答えた。

「ふーん、ちっちゃいし、かわいいし、学生でも十分通用しそうだね」
「そうですか?」
と言いながら、その点は自分でも自覚している。

私、八島璃子(やしまりこ)24歳。身長153センチ。
元々色白で、はっきりとした二重の目を除けば小さな口と鼻がおとなしい印象。
その上最近になって髪を切り、顎のラインで切りそろえられたボブがさらに幼い印象を与えている。
学生時代から童顔の私は、少しでも大人にみられたくてロングヘアを続けてきた。絶対に髪は切らないと思っていたけれど、事情があり10年ぶりのボブ。
おかげで街を歩いていても、声をかけられることが増えてしまった。

「もう少しパシッと化粧して、大人っぽい格好をすれば印象も違うと思うけれどね。何しろ璃子ちゃん美人だから」
「そんなことは・・・」

これは褒められているんだろうか、いや、絶対にからかわれている。
荒屋さんは営業だから口もうまいし、こんなにずけずけとものを言っても嫌味な印象はない。でも、私にだって言い分はある。
長いこと伸ばしてきたロングヘアをバッサリと切ったのには荒屋さんも関係している。きっと荒屋さん自身は気が付いていないだろうけれど。