「何か飲む?」
「うん」
「コーヒー?ジュース?お茶?」
「お水でいいわ」

20年ぶりに来たってきいたけれど、建物の中はとてもきれいに手入れされていて、玄関にはお花がありキッチンは食材まで準備されている。

「来る前に連絡しておいたから数日間暮らせるだけの食料は用意してあるぞ」
「へー」
凄い。

こういうところを目の当たりにするとやはり私とは住む世界が違うのねって実感する。
当然不安にもなる。

「こーら」
コツンと、淳之介さんが人差し指で私の額を小突く。
「どうせまた余計なことを考えているんだろう」
「だって・・・」

やはり、淳之介さんにはお見通しらしい。

「ここは俺にとって思い出の場所なんだ。だから、璃子を連れて来たかった」
「そう」
「俺の記憶の中で、家族だけで過ごせたのはここだけだからね」
「ふーん」

以前、「金持ちの家に生まれるとプライベートもない」って淳之介さんがぼやいていたっけ。
私には想像もできないけれど、たいへんなんだろうな。

「明日の昼まではここにいる予定だから、璃子もゆっくりするといい。着替えも部屋に用意してあるから、着替えておいで」
「ええ」

そう言えば何の準備もせずに来てしまったと心配していたけれど、寝室には着替えの服と下着が用意されていた。
これもみんな中野家が雇っている管理人さんに用意してもらったと思うと恥ずかしいけれど、ありがたく使わせてもらおう。