21トリソミー

「でも、本当にお弁当だけ。変に近づいて松岡さんに迷惑掛けたくなかったから」

 友樹が付け足した言葉に、涙が出た。友樹は浮気を、私のためでなく松岡さんのために堪えたんだ。

「……友樹ってさ、純粋っていうか単純っていうか……馬鹿だよね」

 奈子が唇の端から息を出し、呆れながら嗤う。

「友樹には毎日せっせと弁当拵えてくる弁当女がさぞ健気で可愛く見えただろうね。世間一般では、妻を差し置き、出しゃばって既婚者に弁当作る女なんて非常識だから。下心丸出しで下品で気持ち悪い」

 奈子の明らかに言い過ぎな悪口に、

「そんな言い方ないだろ」

 堪らず友樹が言い返した。

「何その、弁当女を侮辱するな‼ 的な反抗は。【下品で気持ち悪い】のは弁当女とアンタのことだからね。私、友樹のこともしっかり侮辱してるからね。弁当女も常識がないけど、その女の弁当を嬉々として食ってた友樹も常識からかけ離れてるからね。非常識な女を非常識な男が庇ったところで、周りが納得する常識になるわけないからね」

「…………」

 マシンガンのように強い言葉を連打する奈子に言い返そうと、友樹は口を開いたが、その口から言葉は出てこなかった。