21トリソミー

 どうせとぼけた後、職場で辻褄合わせの嘘を口にしながら、私に情報をもらしたと容易に想像がつく奈子に詰め寄るだろう。そうすると、奈子がお弁当女の正体を探りづらくなってしまう。

 ここは、何も言わないでおくのが得策だ。

「……私も家計を支えなきゃね。パート探しがんばるね。さぁ、食べよう」

 無理矢理笑顔を作って、おかしくなりかけた空気を吹き飛ばす。

「うん。いただきます」

 合掌して箸を持った友樹が、鮭の香草ムニエルを口に運んだ。

「コレ、超美味い」

 手料理を褒められるのは嬉しい。でも、誰かが作ったお弁当とどっちが美味しいの?

 胸の辺りがチクチクする。

 しかし、考えても考えても分からない。友樹は営業職だから残業は多い方。だけど、遅く帰ってくる頻度は結婚前と変わらない。今日だって、いつもと同じ時間に帰ってきた。

 友樹浮気なんかしていないんじゃないか? 奈子の見間違いなんじゃないか? と期待はしてみるも、【曲げわっぱのお弁当箱】を見間違える人間などいるとは思えない。