『イヤイヤイヤ、メッセージにしなさいよ。何、電話掛けてきてるのさ。営業出払ってるから出たけども。香純、今日妊婦検診で有休だったよね? 病院帰り? お子は順調かい?』

 仕事が暇なのか、奈子は電話を切ろうとはしなかった。

「今、事務所に奈子の他に誰がいる?」

『私だけー。やりたい放題状態』

 電話の向こうで奈子が呑気に笑った。

 私と奈子はとある専門学校の広報課の事務員をしている。夫の友樹はその営業マンだ。

「奈子、どうしよう。NIPTで引っ掛かった。21トリソミーが陽性だって」

 事務所に奈子以外誰もいないことを確認し、堪えていた涙を噴き出す。

『え⁉ えぇ⁉ どうした、香純‼ NIPT? 21トリソミー?』

 突然泣き出した私に驚いた奈子は、独身だからなのかNIPTと21トリソミーが何なのか分かっていない様子だった。

 受話器の奥から、パソコンのキーボードを叩く音がする。