「それは愛情じゃないじゃん。執着だよ」

 離婚を期待していただろう友樹が、驚いた顔をしながら首を横に振った。

「だったら何?」

「……え?」

「自分に愛がなくなったからって、私の愛情を執着と決めつけないでくれるかな?」

「…………」

「結婚は恋愛と違うんだよ。片方の愛情がなくなったからって『ハイ、おしまい』になんかならないんだよ」

「…………」

 無言で唾を飲み込んだ友樹の喉仏が上下に動いた。友樹はきっと、私への愛情の無さを伝えれば、私が身を引くと考えていたのだろう。そうはさせるか。

「私、子どもが欲しい。子ども、作ろう」

 ソファから立ち上がり、友樹の膝の上に跨った。

「……え?」

「正当な理由なく夫婦生活を拒んだ場合、慰謝料の対象になる。当然知ってるよね? 慰謝料、払いたくないんでしょ?」

 友樹の首に腕を回し、身体を密着させた。

 いくら私にお金を渡したくないからって、松岡さんの為に慰謝料を払って別れようという気概もない友樹のセコさに失望しながらも、別れたいはずの私の身体にしっかり反応する友樹に喜びを感じてしまう私は、世界で一番馬鹿で愚かな女なのだろう。