「……後悔した。香澄があんな状態になるなら産ませてあげれば良かったって……」

 私を気遣うフリをしたふざけた友樹の言い分に、反射的に平手打ちをしそうになった右手を、僅かに残っていた冷静さを持った左手が止めた。

 子どもを産んでいたとしても、友樹はどうせ『育児で疲弊した香澄を見て、俺の心も疲れた』だのなんだの言って、松岡さんに傾いただろう。とんでもないクソ男だ。

 自分が当事者でなければ『そんな男となんかさっさと別れなよ』と強めに説得しただろう。この場にまだ奈子がいたなら、奈子も100パーセントそう言うはずだ。でも、

「……離婚なんかしないからね。松岡さんなんかに、絶対渡さないからね」

 自分のこととなると、全く正反対の答えを出してしまう。ドラマでよく見る、バカな男に入れあげる大馬鹿女の様だ。テレビを見ながら『何なんだ、この女は』と呆れていたが、今ならあの女の気持ちがよく分かる。