「どれにしますか?」

 君はじっとショーケースを見つめて、和菓子を選んでいた。俺はお茶を淹れながら、どう話をしようか考えていた。

 「水まんじゅう、頂けますか?」

 「はい、かしこまりました。」

 君の為に丁寧に菓子をお盆に載せて、熱いほうじ茶と一緒に店の一画のテーブルへ運ぶ。

 「どうぞ。」

 君は優しく頷いて椅子に座る。

 「お客さん、観光ですか?」

 「はい。」

 「東京からですか?」

 君はそれはそれは垢抜けていたから。君は小さく頷く。

 「ちょっと、小旅行へ来たんですけど、雨が降ってきて。」

 「そうですか、ここら辺は何も無いでしょう?」

 「そんなこと、無いですよ。」

 「今夜は泊まるんですか?」

 「はい。でも、宿を探さないと。」

 「良ければ紹介しますよ。」

 君は目をぱちくりさせていた。

 「横の繋がりがあるんですよ。ちょっと待ってて下さい。」

 奥に入って、電話をかけた。君に似合いそうな静かな宿。空いていれば安く泊めてくれる。幸い空きは充分にあった。保留にして店に戻る。

 「空いているとこ、ありましたよ。静かで温泉も綺麗な宿なんですけど、どうしますか?」

 「おいくらかしら?」

 「6000円です。素泊まりですけど。」

 「安いんですね。そこ、お願いしても良いかしら?」

 「じゃあ、押さえておきますね。」

 奥に戻って電話に戻って予約を押さえた。その様子を見た父親が静かに言った。

 「送ってやったら。」

 「うん。」

 車のキーを持って店に戻ると、君は水まんじゅうを食べていた。

 「美味しいです。あんこがサラサラ。」

 「そうですか?親父に言っておきます。あ、宿まで送りますよ。」

 「息子の車に乗ったらいいよ。」

 父親が奥から出てきて口を挟む。君は丁寧に頭を下げる。

 「お言葉に、甘えさせて頂いて…。」

 やった!

 「美味しい店も案内してやり。」

 俺の心を読んだような親父のアシストに感謝しながら、俺は紳士な態度で君に笑いかける。

 「もし、良ければ。」

 「ええ。」

 「じゃあ、車回してくるので待っててください。」

 「俺は今夜、寄り合いで遅いからな。母さんもだ。」

 その様子を微笑ましいといった風情で君は聞いていた。