口から母国語である日本語が出てしまう。棚の一番上の段に置かれた本を取れるよう、この図書室に脚立が置かれている。だが、その脚立は違う人が使っているため、自力で取るしかない。

有紗はその場でピョンと何度かジャンプをして取ろうとするも、指が資料に僅かに触れるだけでもどかしくなってくる。すると、何者かが有紗の背後に立つ。そして、資料は大きな手によって取られる。

「はい、これでいいかな?」

聞こえた声に振り返った有紗の時間が一瞬止まる。有紗よりも二十センチは高い身長、サラリとした明るいブラウンの髪に、空を思わせるぱっちりとした水色の瞳、紺色のスーツを着こなした華やかな顔立ちの男性が資料を有紗に差し出し、微笑みながら立っている。有紗の頬が一瞬して赤く染まっていった。

「ありがとうございます!ウィリアム先生」

「どういたしまして」

男性ーーーウィリアム・ブルー、三十一歳は、この高校で歴史を教えている。俳優に負けないほどの顔立ちと紳士的な振る舞いから、密かにファンクラブが作られているほど人気者である。