住んでいるマンションに到着すると、彼は私を下ろしてくれた。

「ありがとうございました」

お礼を言った私に、
「いえ、こちらこそ」
と、彼は言った。

「それじゃあ、俺はこの辺で」

「えっ…ああ、はい」

お茶を出そうかと思ってたのに…。

立ち去る彼の後ろ姿が見えなくなったのを確認すると、私はマンションの中へと足を踏み入れたのだった。

「いい人だったな…」

きっと彼女がいるんだろうな。

あの人に大切にしてもらえるなんて、彼女は相当なまでに幸せかも知れない。

うらやましいなあ。

「なんて、私には関係のないことか…」

そう呟いた後で息を吐くと、住んでいる部屋へと足を向かわせたのだった。