意気込んで引き返そうとしたら、
「琴美さん?」

聞き覚えのあるその声に私は振り返った。

「あっ…」

そこにいたのは高城さん…と、先日に見た例のショートカットの女性である。

「えっ…ああ、どうも…」

顔がひきつっているのを感じながらも自分なりに笑顔を作ってあいさつをした。

大丈夫だ…。

まだ気づいていない…。

後はこのまま立ち去るだけだ…。

「んっ?」

ショートカットの女性は私の顔をじっと見たかと思ったら、何かに気づいたと言う顔をした。

「ちょっと、兄さん!」

「…えっ?」

ショートカットの女性がバシッと高城さんの肩をたたいたので、私は思わず声を出した。

私の聞き間違いじゃなかったら高城さんのことを“兄さん”と言ってたような…?