告白の予防接種

 学校祭の花火は雨で中止となった。

 彼に彼女がいるのか、結局は分からない。

 これ以上、悲しまないように、私の中では「彼は彼女もち」ということになっている。

 あれからも、いや、彼の「彼女と見たい発言」のあとの方が、より一層、彼を思うドキドキが止まらない。彼が誰かと、その恋人的な関係になっているなら、悔しくてたまらない。もう手はつないだのかな? ハグしたのかな? まさかその先も?? そんなことを考えるとどんどん気が滅入るのだった。
 でも、たとえ彼女がいたって、教室にいるとき、彼の隣は私の席なのだ。彼の隣は私のものだ。そう考えると私は彼女にならなくてもいいのかもしれない。
 でもでも、彼の優しさを独り占めできる、私のことだけを見てもらいたい。だめだとわかっていても、彼女がいるかもしれない彼への想いを捨てきることはできなかった。

 「え、知らなかったの? 俺、彼女いるよ〜」

 「ごめん! 俺、ほかに好きな子いてさ」

 「気持ちは嬉しいけど、ごめんね」

 何度も頭の中で「好きです」と言ってみては、失恋する妄想を繰り返す。ダメだとわかっていてもやめられない。

 そうこうしているうちに、もう夏休みが始まる。明日からはこうして毎日学校に来ることもないし、2学期になったら席替えで彼の隣ではなくなるかもしれない。
 もう今日しかチャンスはなかった。
 でも、なかなか2人きりになれなかった。

 サッカー部が終わって、みんな帰ってしまった。教室に残っていたのは、私と彼と、あと数人。彼が電話しながら教室を出たタイミングで、私も帰ることにした。

 「やっほー、おつかれ!」

 「おお、おつかれ!」

 電話が終わったところを見計らって、声をかけた。いま、ここには私と彼、2人しかいない。
 生徒玄関を出て、バス停までの数十メートル。
 私と彼の最初で最後のデートだ。

 「夏休みもずっと部活なの?」

 「うん。こんなときじゃないと、本腰入れて練習できないからね。」

 「部活の夏って青春だね!」

 「うん。でも俺は彼女と遊ぶ夏を過ごしてみたかったよ。」

 え? 過ごしてみたかったって、彼女いないの?

 「サッカー部で最近彼女ができたやついて、正直うらやましいんだよ。」

 「う、うらやましいよね。ほんと、幸せ見せつけないでほヒぃよ。あ!」

 なんとか普通を装っても、声の震えは止まらなかった。

 「彼氏いないの? かわいいのに意外だね。」

 どこから出てきたのかわからない「ヒェ」という音がのどから漏れる。もう、もう言わないと一生言えない。そんなの、いや。
 私は立ち止まって、すべての集中力を彼に注いだ。

 「実はね、私、好きなの。ずっと前から好きだったの。私でよければ付き合ってくれない?」

 夕日を背にした彼は、どんな表情をしているのか見えなかった。

 「おまえ『で』じゃダメ。」

 「ええ!!」

 「俺はおまえ『が』いい! 告白、とられちゃったァ。これからよろしくな!」

 彼は私の妄想を超える、サイコーの彼氏になった。