告白の予防接種

 夏が来た。
 いままで以上に私の気持ちはおさえられない。

 気づけば彼を見つめ、目があった途端に目をそらす。そんなことを毎日している。
 毎日、というのは、席替えで隣になったからだ。高校初のテストではそれなりの成績を取れたけど、席替えの後、音を立てるように成績が落ちるのを感じている。だって授業が耳に入ってこないんだもん。隣に彼がいると言うだけでドキドキして、ほとんど同じ空気を吸っていると言うだけでニヤニヤしてしまう。そんな自分をおさえるのに必死で、授業どころではないのだ。

 「なあ。」

 隣になって、彼が私に話しかける、という展開がほぼ毎日のように訪れている。いつも恥ずかしがるのを悟られないように、平静を装って応じる。

 「どうしたの?」

 「いや、どうってこともないんだけど、学校祭で花火が上がるんだって。」

 「へぇ、そうなんだ。」

 「席って自由席、かなぁ?」

 「え? わかんないよ。なんで?」

 「やっぱりさ、そういうのって、彼女と見たいじゃん。」

 え? か、彼女?

 「彼女と見たい」って言ったときの彼の表情がキラキラしていたのが、事実を突きつけているようだった。
 私はその可能性をまったく考慮に入れていなかった。きっと彼には彼女がいる。そして、学校祭の花火を一緒に見たがっている。
 いままで何度でもチャンスはあったのに、私は踏み出せなかった。

 学校祭は2週間後。
 グランドにあがる大きな花火。
 クラスごとと言いながら、徐々に隊列を崩すリア充。

 私には、私の前で仲良く見上げる男女が見えた。男性は彼。女性が私になる未来はあるのかな?

 そんな妄想が頭を駆け巡った。そのあと、トイレに逃げて、涙を流しきってきたことは、誰にも言ってない。