「ふふふーん」
「なんだか今日は随分と陽気だね。エリス」
姿見の前で鼻歌を歌っていたら、エアが話しかけてきた。
「だって。カリナだけでも楽しいのに。今日はアベルも来てくれるんだよ? 絶対楽しい日になるよ!」
「あ、ああ……そうだね」
今日はこの前約束した、三人でお菓子を食べにいく白竜の日だ。
約束の時間にはまだ少し時間があるけれど、あまりに楽しみでじっとしていられない。
そんなことを考えていると、部屋の扉を叩く音が聞こえてきた。
「すいません。エリス。ちょっといいですか?」
声はカリナのものだった。
どうしたんだろうと思いながら、扉を開ける。
「どうしたの? 約束の時間にはまだ少し早いと思うけど」
「それなんですが。実は今日のお誘い、都合が悪くなりまして。申し訳ないですが、今日はいけません」
中に招き入れながら用件を聞く私に、カリナがとんでもないことを言い出した。
まさか、今日になって来れないだなんて。
「え!? どうしたの!? 何か急用!?」
「ええっと。そうですね。どうしても外せない用事です。すいません」
「えー。そんなぁ。じゃあ、しょうがない。今日は諦めて、また今度の白竜の日にしようか? あ、アベルも来る予定だったんだけどね。予定合うかなあ……」
「いいえ! それはいけません! アベル様と行くのでしたら、どうぞ、お二人で!!」
私が言った言葉に、カリナが凄い勢いで返してきた。
カリナがこんな勢いよく喋るのは初めてだったので、私は目を丸くして驚いてしまった。
「あ、いえ。おすすめの甘味はまだまだありますので。今日はせっかくなので、お二人で行ってきてください」
「そう? じゃあ、そうしようかなぁ。あ、もし買って帰れるなら、カリナの分を買ってくるね」
「ありがとうございます。では、私は用事がありますのでこれで」
「うん。残念だけど、また今度ね」
それにしてもカリナが来られないのは残念だ。
そんなことを思ってふとエアを見たら、なんだか妙な顔付きでカリナの方を見ていた。
☆
「えーっと、この店でいいのかな?」
「うん。多分。カリナに書いてもらった道通りに来たし、お店の見た目も名前も書いてある通りだし」
カリナからもらったメモを頼りに、私とアベルは今回の目的のお店に到着した。
今回のお菓子の名前は【クレムブリュレ】、どんなお菓子なのか楽しみだ。
「ひとまず入ろうか」
そう言うと、アベルは扉を開け私を通してくれた。
「ありがとう」
お礼を言って中に入る。
店内は簡素な作りで、テーブルも全部で四つしかなかった。
「ひとまず、座ろう。ここでいいかな」
「うん」
アベルに促されて、入口から一番奥にあるテーブルに座る。
すると店員が近付いてきて、注文を聞いてきた。
目的のお菓子の名前をアベルが告げると、店員は頷き奥に戻る。
そのやりとりを私はじーっと眺めていた。
今日のアベルの服装は、休みの日にもかかわらず、妙にしっかりしていた。
そういえば、何か荷物が入っていそうな小さな袋も持っていた。
「どうしたの? そんなにじっと見て」
私の視線を感じたのか、アベルが私に問いかけてきた。
なんて答えればいいのか分からず、私は一瞬考えた結果、思った通りの言葉を言うことに決めた。
「なんか、今日のアベルはいつも以上に素敵だなって」
「え!?」
私の言葉にアベルの頬が赤く染まる。
よく考えたら、今の言葉は少し不適切だったかもしれない。
『あーあ。エリス。君ってほんとアレだねぇ……』
『うるさいなぁ。アレって何よ。アレって』
エアに文句を返していたら、店員が戻ってきた。
トレイに載せられたお皿を私とアベルの前に置いていく。
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
「うん! ありがとう!!」
店員にお礼を言って、私は目の前に置かれた【クレムブリュレ】に視線を注ぐ。
白い陶器の器に入ったそれは、黄色と茶色のまだら模様をしていた。
「このスプーンですくって食べるんだね。あ、思ったより硬いのかな?」
私は皿の上に一緒に添えられたスプーンで【クレムブリュレ】の表面をつつく。
スプーンは中に入ることなく、美味しそうな音を立てる。
「いや、硬いのは上の部分だけみたいだよ」
「え? あ、ほんとだ」
アベルが自分の皿の中を見せながら言う。
スプーンで割られた上の部分は薄く、その中は黄色いクリームが入っていた。
「これは一緒に食べるのかな? じゃあ、食べてみようか」
そう言うと、私はアベルと同じように上の硬い部分を割り、かけらにしたそれと下のクリームを一緒に口へ運ぶ。
その瞬間、優しい甘さが口いっぱいに広がった。
「うわぁ……美味しい!」
「ああ。本当だ。美味いな。これ」
アベルも口に入れた味に満足したらしい。
間髪入れずに二口目を食べていた。
「ほんと美味しいねぇ。カリナも来られたら良かったんだけどね。残念だったなぁ」
「え? カリナが来る予定だったのか!?」
「うん。言ってなかったけど、本当は三人で来る予定だったんだ。でも、急に用事ができたって。あ、アベルなら用事があることは知ってるのかな?」
「あいつ……どうやって気づいたんだか……」
アベルが何か独り言のように呟いた。
何か変なことを言ってしまっただろうか?
「あれ? 私もしかして、変なこと言った?」
「いや、なんでもない。気にしないでくれ」
そんなやりとりの後、私たちは楽しく話しながら、【クレムブリュレ】を楽しんだ。
アベルの提案で、追加でハーブティまで堪能した。
「ふぅ……美味しかったぁ。楽しかったぁ。ねぇ、もしアベルが良かったら、時間が合う時だけでもいいから、またこうやって甘いもの食べに来ない? 今度はカリナもきっと来られると思うし」
「あ、ああ。そうだな」
食べ終わった後、私が言った言葉に、なんだかアベルは上の空のようだ。
顔がなんだかいつもより真剣な気もする。
「どうしたの? なんか心配事?」
気になって私が声をかける。
そんな私にアベルはすごく真面目な顔をして言った。
「エリス。大事な話があるんだ。聞いてくれ」
「なんだか今日は随分と陽気だね。エリス」
姿見の前で鼻歌を歌っていたら、エアが話しかけてきた。
「だって。カリナだけでも楽しいのに。今日はアベルも来てくれるんだよ? 絶対楽しい日になるよ!」
「あ、ああ……そうだね」
今日はこの前約束した、三人でお菓子を食べにいく白竜の日だ。
約束の時間にはまだ少し時間があるけれど、あまりに楽しみでじっとしていられない。
そんなことを考えていると、部屋の扉を叩く音が聞こえてきた。
「すいません。エリス。ちょっといいですか?」
声はカリナのものだった。
どうしたんだろうと思いながら、扉を開ける。
「どうしたの? 約束の時間にはまだ少し早いと思うけど」
「それなんですが。実は今日のお誘い、都合が悪くなりまして。申し訳ないですが、今日はいけません」
中に招き入れながら用件を聞く私に、カリナがとんでもないことを言い出した。
まさか、今日になって来れないだなんて。
「え!? どうしたの!? 何か急用!?」
「ええっと。そうですね。どうしても外せない用事です。すいません」
「えー。そんなぁ。じゃあ、しょうがない。今日は諦めて、また今度の白竜の日にしようか? あ、アベルも来る予定だったんだけどね。予定合うかなあ……」
「いいえ! それはいけません! アベル様と行くのでしたら、どうぞ、お二人で!!」
私が言った言葉に、カリナが凄い勢いで返してきた。
カリナがこんな勢いよく喋るのは初めてだったので、私は目を丸くして驚いてしまった。
「あ、いえ。おすすめの甘味はまだまだありますので。今日はせっかくなので、お二人で行ってきてください」
「そう? じゃあ、そうしようかなぁ。あ、もし買って帰れるなら、カリナの分を買ってくるね」
「ありがとうございます。では、私は用事がありますのでこれで」
「うん。残念だけど、また今度ね」
それにしてもカリナが来られないのは残念だ。
そんなことを思ってふとエアを見たら、なんだか妙な顔付きでカリナの方を見ていた。
☆
「えーっと、この店でいいのかな?」
「うん。多分。カリナに書いてもらった道通りに来たし、お店の見た目も名前も書いてある通りだし」
カリナからもらったメモを頼りに、私とアベルは今回の目的のお店に到着した。
今回のお菓子の名前は【クレムブリュレ】、どんなお菓子なのか楽しみだ。
「ひとまず入ろうか」
そう言うと、アベルは扉を開け私を通してくれた。
「ありがとう」
お礼を言って中に入る。
店内は簡素な作りで、テーブルも全部で四つしかなかった。
「ひとまず、座ろう。ここでいいかな」
「うん」
アベルに促されて、入口から一番奥にあるテーブルに座る。
すると店員が近付いてきて、注文を聞いてきた。
目的のお菓子の名前をアベルが告げると、店員は頷き奥に戻る。
そのやりとりを私はじーっと眺めていた。
今日のアベルの服装は、休みの日にもかかわらず、妙にしっかりしていた。
そういえば、何か荷物が入っていそうな小さな袋も持っていた。
「どうしたの? そんなにじっと見て」
私の視線を感じたのか、アベルが私に問いかけてきた。
なんて答えればいいのか分からず、私は一瞬考えた結果、思った通りの言葉を言うことに決めた。
「なんか、今日のアベルはいつも以上に素敵だなって」
「え!?」
私の言葉にアベルの頬が赤く染まる。
よく考えたら、今の言葉は少し不適切だったかもしれない。
『あーあ。エリス。君ってほんとアレだねぇ……』
『うるさいなぁ。アレって何よ。アレって』
エアに文句を返していたら、店員が戻ってきた。
トレイに載せられたお皿を私とアベルの前に置いていく。
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
「うん! ありがとう!!」
店員にお礼を言って、私は目の前に置かれた【クレムブリュレ】に視線を注ぐ。
白い陶器の器に入ったそれは、黄色と茶色のまだら模様をしていた。
「このスプーンですくって食べるんだね。あ、思ったより硬いのかな?」
私は皿の上に一緒に添えられたスプーンで【クレムブリュレ】の表面をつつく。
スプーンは中に入ることなく、美味しそうな音を立てる。
「いや、硬いのは上の部分だけみたいだよ」
「え? あ、ほんとだ」
アベルが自分の皿の中を見せながら言う。
スプーンで割られた上の部分は薄く、その中は黄色いクリームが入っていた。
「これは一緒に食べるのかな? じゃあ、食べてみようか」
そう言うと、私はアベルと同じように上の硬い部分を割り、かけらにしたそれと下のクリームを一緒に口へ運ぶ。
その瞬間、優しい甘さが口いっぱいに広がった。
「うわぁ……美味しい!」
「ああ。本当だ。美味いな。これ」
アベルも口に入れた味に満足したらしい。
間髪入れずに二口目を食べていた。
「ほんと美味しいねぇ。カリナも来られたら良かったんだけどね。残念だったなぁ」
「え? カリナが来る予定だったのか!?」
「うん。言ってなかったけど、本当は三人で来る予定だったんだ。でも、急に用事ができたって。あ、アベルなら用事があることは知ってるのかな?」
「あいつ……どうやって気づいたんだか……」
アベルが何か独り言のように呟いた。
何か変なことを言ってしまっただろうか?
「あれ? 私もしかして、変なこと言った?」
「いや、なんでもない。気にしないでくれ」
そんなやりとりの後、私たちは楽しく話しながら、【クレムブリュレ】を楽しんだ。
アベルの提案で、追加でハーブティまで堪能した。
「ふぅ……美味しかったぁ。楽しかったぁ。ねぇ、もしアベルが良かったら、時間が合う時だけでもいいから、またこうやって甘いもの食べに来ない? 今度はカリナもきっと来られると思うし」
「あ、ああ。そうだな」
食べ終わった後、私が言った言葉に、なんだかアベルは上の空のようだ。
顔がなんだかいつもより真剣な気もする。
「どうしたの? なんか心配事?」
気になって私が声をかける。
そんな私にアベルはすごく真面目な顔をして言った。
「エリス。大事な話があるんだ。聞いてくれ」